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論説 青葉会議を終へて 総長選任問題と斯界のあり方

令和6年06月03日付 2面

 神社本庁五月定例評議員会を中心とする斯界恒例の青葉会議が終了した。
 令和二年から昨年まで、新型コロナウイルス感染症の影響を少なからず受けてきた評議員会。これまで神社庁職員に限定してゐた傍聴も広く認められ、従前通りの形での開催となった。
 会議では能登半島地震に関し、全国から寄せられた神社義捐金の分配にあはせ、災害等対策資金の緊急支出についての報告があった。また天皇陛下から第六十三回神宮式年遷宮について御聴許を賜ったことを踏まへ、遷宮奉賛・参宮促進に関する評議員提出議案が決議されてゐる。さうした災害対応や遷宮奉賛をはじめ斯界において取り組むべき課題が山積するなか、まづ以て疫禍を経て通常通り評議員会が開催されたことを慶びたい。


 執行部からは、令和六年度一般会計歳入歳出予算案など四議案が提出された。次年度予算は、「第六十三回神宮式年遷宮の完遂に向け、神宮大麻頒布向上への取組みの積極的な実施」「安定的皇位継承に向けた法整備の働きかけと憲法改正の気運の醸成」「過疎地域等における小規模神社への対応」「後継神職の育成に係る施策並びに神職養成・研修の充実」の四点を事業の柱とし、総額五十六億五千九百五十三万円とすることが決まった。
 また評議員提出議案として、先述の「式年遷宮を踏まへた遷宮奉賛・参宮促進」をはじめ「台湾有事に際しての対処対応の周知」「憲法改正や自主憲法に関する関係方面への働きかけ」「英霊顕彰の心の護持顕現に向けた運動展開」に係る四件を本会議において決議。このほか、神社に関はる係争解決のため、神社庁・本庁との情報共有や規程改定の検討などを求めた一件が事務局送付となってゐる。
 この評議員提出決議案件等については役員会で処理方針が決定され、さらに来年の十月定例評議員会で処理結果が報告される。神社本庁に対応を要望するだけでなく、向後一年間に亙る施策展開にあたり、それぞれの立場においての取組みにも努めたい。


 半年前の十月定例評議員会に引き続き、やはり係争中の総長選任問題が議論の中心となった今回の評議員会。「神社本庁がどうあるべきかといふ重要問題について、司法に最終的な判断を委ねてしまふことは責任放棄ではないか」などとして、評議員による主体的な議論に期待を寄せた異例の統理挨拶で幕を開けた。
 一昨年の五月定例評議員会後の総長選任にあたり、庁規第十二条第二項(「総長は、役員会の議を経て、理事のうちから統理が指名する」)の解釈をめぐり議論が紛糾。統理から総長指名を受けた芦原髙穂理事が、その地位確認を求めて提訴し、一昨年十二月の東京地方裁判所での請求棄却、昨年六月の東京高等裁判所での控訴棄却を経て、現在は最高裁判所に上告してゐる。
 二日間に亙る会議期間中さまざまな意見が交はされ、日程終盤には神宮式年遷宮に向けて統理のもと神社界が一致協力するため、統理の総長指名を尊重することの決議を求める緊急動議が提出され、評議員二人の賛同を得て成立。動議に対して賛否両論の立場からそれぞれ発言があったものの、残念ながらこれまで同様に議論はひたすら平行線を辿った。結局、さらなる発言要求が続くなかではあったが、今まさに係争中の事案で、総長選任は評議員会の権限に属さないとの意見もあって、採決には至らぬまま討論は打ち切りとなった。


 昭和二十一年に設立された神社本庁は再来年が八十周年にあたり、また同五十五年に精神的規範として神社本庁憲章が制定されてからも、すでに四十年余りが経過してゐる。この間、神社をめぐる社会環境は大きく変化し、その影響は少なからず神社関係者の意識等にも及んでゐるのではなからうか。
 総長選任問題が長期化するなか、現在の理事・評議員の任期は一年を残すのみとなってをり、第六十三回神宮式年遷宮の本格的な奉賛活動の始まりを前に、もちろん誰もがその早期解決を望んでゐる。一方で、本庁設立や憲章制定を含め、先人たちの歩みを真摯に顧みながら、より中・長期的な視点で斯界のあるべき姿を再確認していくやうなことも重要だらう。さうした取組みこそが、今回の総長選任問題の長期化のやうな事態を未然に防ぐことにも繋がると信じるものである。
令和六年六月三日

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