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杜に想ふ 武道の広がり 山谷えり子

令和6年07月01日付 5面

 東京入谷鬼子母神の「朝顔市」に続いて浅草の「ほおずき市」と、東京の街に浴衣姿が広がっていく。全国では夏山が次々と開き、信仰心とともに登られる方々も多くなる。日本人は山には神霊が宿ると感じ、欧米のやうなスポーツ登山とは違った趣があることを海外の観光客が昨今は興味深く感じられてゐると聞く。
 学校の部活動も時間変更を考へ、朝七時頃から部活をスタートさせるなどの説明を保護者会でおこなったり、夏期講習会や林間学校の注意事項にも暑さ対策に力を置いたりしてゐるといふ。子供たちが日傘、サングラス、日焼け止めクリームを使ふ姿には、ばあちゃん世代として複雑な思ひもするが、やむをえないといふことだらうか。私の育った時代は毎朝のラヂオ体操に始まり、そのあと皆で神社やお寺に集まって夏休みの宿題をし、午後はプールや海でまっ黒になりながら遊んだものだった。紫外線による悪影響の知識もなく、まことにのびのびと、のんきな時代だったなぁと懐かしむ。
 さて、私は国会の武道議員連盟の副会長をさせていただいてゐるが、この夏も暑さ何するものぞと少年少女の武道錬成大会が全国各地で予定されてゐるのは頼もしいことである。価値観の多様化のなかで、行動規範や善悪の基準が揺らいでゐるやにみえる時代だが、武技による心身の鍛錬は旺盛な活力と清新な気風を育て、礼を尊重する心、謙虚に努力する心を育成し、生涯の幸せを作る基盤となると期待する。
 中学校武道授業が必修化されて十六年になるが、武道議員連盟として次は小学校での必修化や、海外日本人学校における武道授業の充実のための支援体制を推進してゐる。学習指導要領においては武道の種目として柔道、剣道、相撲、空手道、なぎなた、弓道、合気道、少林寺拳法、銃剣道の九種があげられてゐる。外部指導者を活用し、幅広く複数種目に触れられるやう支援措置も講じてゐる。全国の町道場は少子化の影響もあって維持が苦しいところもあり、助成金の支出や相続税、固定資産税の減免措置も要望してゐるところである。
 このところ外国からの観光客で日本の精神性に着目し、日本発祥の武道体験をしたいといふ人も増えてゐる。スポーツ庁では武道ツーリズム促進の予算を付け、スポーツ基本計画に「世界に誇れる伝統的な我が国の武道の推進を図る」と明記した。五十年以上前に合気道を見て、たちまち魂を揺さぶられ、今もお稽古に通ってゐる私としては、武道は日本の伝統文化であって、スポーツとは違ふと考へてはゐるが、武道の広がりは世界平和に寄与するとの思ひから、スポーツと表現されることへの違和感はこの際封印し、スポーツ庁の取組みを応援しながら武道の心で夏を乗り切りたい。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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