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論説 猛暑のなかで 研修・教化と祖霊祭祀

令和6年08月12日付 2面

 暦の上ではすでに八月七日の立秋を過ぎ、間もなく暑さ和らぐとされる処暑を迎へるが、いまだ連日のやうに厳しい暑さに見舞はれてゐる。
 気象庁は八月一日、先月の平均気温が統計を開始した明治三十一年以降の七月として過去最高だったことを発表。基準値(平成三年から令和二年までの三十年間の平均値)からの偏差がプラス二・一六度となり、昨年のプラス一・九一度を上回って歴代一位になったといふ。さらに今後、向う一カ月も全国的に高温となり、八月前半は広い範囲で最高気温が三十五度以上の猛暑日が多くなるなど、引き続き厳しい暑さになる見込みだとして、適切な熱中症予防対策を求めてゐる。


 この夏に関して斯界では、「研修の夏」「教化の夏」などともいはれてきた。
 研修についてはこの時期、祭式・雅楽・祭祀舞といった実技から各種講義などの座学を含め、さまざまな研修会が開催され、受講生それぞれが日々の神明奉仕に活かすべく研鑽に励んでゐる。神道青年全国協議会の夏期セミナーや全国教育関係神職協議会の中央研修会などもこの時期に実施され、そのほか神職資格の取得に向けた講習会や学生の神務実習なども各地でおこなはれてゐる。かねてより神職の資質向上、後継者確保が課題となるなか、研修・養成のさらなる充実を望むものである。
 教化については、子供たちの夏休み期間にあたることもあり、青少年の健全育成に向けた緑陰教室などが開催されてきた。とくに今年、全国氏子青年協議会では第六十三回神宮式年遷宮を見据ゑて新たな青少年育成事業を計画してをり、子供たちが伊勢の地で禊神事や皇大神宮参拝などを体験する予定だといふ。かうした体験が夏休みの思ひ出の一つとして子供たちの胸に刻まれ、将来、氏子青年や総代・責任役員として神社を支へる人材に育ってくれることを期待したい。
 もちろん研修・教化の双方とも、必ずしもすぐに目覚ましい成果が表れるとは限らない面もあらう。ただ、かうした地道な取組みの継続こそが、斯界の将来にとって重要であることを再確認したいものである。


 また八月中旬の月遅れ盆を含めた時期は、高速道路の渋滞や新幹線の混雑の報道に象徴されるやうに、多くの人々が故郷へと帰省する。その故郷では親類などが集まり、祖先の墓に参ったり、地元の盆行事に参加したりする。疫禍において自粛する向きもあったやうだが、核家族化や都市部への人口集中が顕著となるなか、盆の故郷への帰省は、氏神への初詣をおこなふ正月とともに、敬神崇祖といふわが国の麗しい国柄を改めて確認する貴重な機会ともいへるだらう。
 この墓参をめぐって昨今は、「墓じまひ」といったこともいはれるが、それが祖霊祭祀の断絶を意味する場合は憂慮される事態といへよう。そのほか社会環境の変化や価値観の多様化が進むなかで、いはゆる「終活」への関心の昂りや、「直送」「家族葬」の増加などを含めて葬送のあり方が変化し、今後の祖霊祭祀への影響も少なからず懸念される。
 故郷へと帰省し、親と子、祖父母と孫などが再会を喜び合ふなかで、親類や地域社会との結び付きといふ横軸と、祖霊との交感やその次代への継承といふ縦軸、それぞれの繋がりの尊さを改めて認識するやうな月遅れ盆としてほしい。斯界としても伝統の護持と変化への対応といふ不易流行を大切にしつつ、敬神崇祖の念の涵養に一層努めていくことが求められよう。


 冒頭で触れたやうに、明治三十一年以降でもっとも暑かった今年の七月。総務省消防庁によれば熱中症により救急搬送された人員は全国で三万七千人(速報値)を超えてをり、過去二番目に多い数値となりさうだ。また東京二十三区内では熱中症の疑ひのある死者数が六年ぶりに百人を超えたといふ。
 かうした熱中症への対策として、例へば第百六回全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園大会)では、試合を午前と夕方に分ける二部制を開幕から三日間に亙り導入。もちろん斯界における研修や教化をはじめ墓参や盆行事などに際しても、熱中症対策や体調管理に万全を期すことが重要とならう。適宜必要な対応を講じながら、それぞれにとって有意義な夏となることを切に願ふものである。
令和六年八月十二日

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