文字サイズ 大小

論説 終戦記念日 終戦八十年をいかに迎へるか

令和6年08月26日付 2面

 「戦没者を追悼し平和を祈念する日」の八月十五日、東京・千代田区の日本武道館では天皇・皇后両陛下御臨席のもと政府主催の「全国戦没者追悼式」が執りおこなはれた。
 日本武道館近くの靖國神社では、「英霊にこたえる会」主催による全国戦歿者慰霊大祭が斎行されたほか、同会と日本会議による第三十八回戦歿者追悼中央国民集会が、今年も境内の靖國会館を会場に動画共有サイトでの配信形式で開催されてゐる。また木原稔防衛大臣を含む閣僚三人をはじめ、超党派の議員連盟「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の議員らが昇殿参拝し、岸田文雄首相は玉串料を奉納。終戦から七十九年を迎へたこの日、約三万二千人の参拝者が同神社を訪れ、英霊に慰霊と感謝の誠を捧げた。


 振り返れば昨年は、令和二年からの新型コロナウイルス感染症の蔓延に一定の収束が見られたこともあり、五月に感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同様の五類に移行。久しぶりに通常通りの八月十五日となることが期待されたものの、折からの台風接近により、例へば「全国戦没者追悼式」では十府県が遺族の参列を見合はせる結果となった。
 そして今年は、直前の八月八日に気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」(巨大地震注意)を発表。月遅れ盆の連休期間と重なったことから、想定震源域など沿岸部の行楽地では宿泊予約のキャンセルが相次ぎ、海水浴場を閉鎖したり、花火大会を中止したりする事例も各地で見られた。八月十五日に際しても、来場者の安全を考慮して戦歿者追悼式・平和祈念式典の中止を決めた自治体もあったといふ。
 疫禍やその後の台風・地震といった自然災害、また近年は熱中症への懸念などもあり、さまざまな事柄に影響されがちな八月十五日となってゐるが、「先の大戦において亡くなられた方々を追悼し平和を祈念する」といふ趣旨に相応しい日となることを切に願ふものである。


 天皇陛下には日本武道館での「全国戦没者追悼式」において、「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民と共に、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」との「おことば」を述べられた。
 ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとパレスチナ武装勢力との衝突が長期化し、その緊迫した情勢が今もたびたび報じられてゐる。さうしたなかで、わが国における「戦後の長きにわたる平和な歳月」が、いかに貴重で尊いものであるのかを改めて実感させられる。ただ、平和な歳月が長く続いてゐるといふことは、同時に戦争が遠い過去の歴史になりつつあることを意味し、かねて記憶の風化が懸念されるとともに、その歴史の評価に対するさまざまな認識が示されてもきた。
 大御心を体し、今も昔も変はらない厳しい世界の現実、さうしたなかでさまざまな対応・選択を余儀なくされてきたわが国の先人たちの歩み、さうした歴史を真摯に顧みながら、戦歿者に哀悼の意を表するとともに、世界の平和とわが国の一層の発展を祈りたい。


 来年は、終戦八十年の節目を迎へることとなる。
 全国の旧指定護国神社では、昭和三十五年の合祀概了奉告をはじめ、同四十年の終戦二十年以降、これまで十年ごとの節目に際して臨時大祭を斎行。この臨時大祭にあたり畏くも天皇陛下には、特別の思召しを以て幣帛料を御奉納遊ばされてきた。
 また平成七年の「戦後五十周年の終戦記念日にあたって」と題するいはゆる「村山談話」以来、同十七年の終戦六十年には小泉首相が、同二十七年の終戦七十年には安倍首相がそれぞれ首相談話を発表。内外のさまざまな思惑などを背景に、とくにその歴史認識に係る文言・表現が関心を集めてきた。
 戦歿者の追悼、平和の祈念はもとより、英霊の慰霊・顕彰の継承のために八月十五日をいかに迎へるべきなのか。終戦八十年といふ節目を来年に控へ、さらに、その先の終戦百年に向けて、それぞれが考へを深めておきたいものである。
令和六年八月二十六日

オピニオン 一覧

>>> カテゴリー記事一覧