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杜に想ふ 家族のありやう 山谷えり子

令和6年10月07日付 5面

 栗が豊作といふなか、「里の秋」を口ずさむ。
「静かな静かな里の秋……栗の実煮てますいろりばた」で始まる歌の三番は「さよならさよなら椰子の島 おふねにゆられて帰られる ああ父さんよごぶじでと 今夜も母さんと祈ります」と結ばれてゐる。歌は昭和二十年十二月二十四日、NHKラヂオ「外地引揚同胞激励の午後」といふ番組で放送され、その後「復員便り」のテーマ曲になったもので、当時の心情、家族の心を思ふとなんとも言へない気持ちとなる。
 このやうな悲しみを繰り返さぬやう、安全保障を確かにし、経済成長する国にしていかねばならない。国際情勢厳しいなか、日本こそが主導的役割を担ふ気概を持つべきだらう。
 安倍元総理の「日本はルールに基づいた、平和で安定した世界秩序を育てる責任を負ふ国です。そんな国が縮んでしまふことは、それ自体がすでに一種の『罪』だとも言へます」と言はれてゐた言葉が今強くよみがへる。自由民主党は昭和三十五年一月の党大会で「良識と寛容の精神、保守主義はまた政治権力の限界を自覚する。政治の限界を理解する事が政治的叡智獲得の芽生えであり、われわれが政治権力の外にあるべき宗教、道徳、慣習、学問、芸術を尊重するゆえんも実にここにある」との基本文書を承認した。この考へ方はどんなに時代が変はらうとも大切にしたい。
 さて、今回、自民党の総裁選で選択的夫婦別姓導入の是非が争点のやうに扱はれたことについて改めて考へたい。当初かなりのメディアが導入こそ進歩であるかのやうな扱ひ方をしてゐたが、実は九候補のうち導入推進は小泉進次郎、河野太郎、石破茂の三氏のみであった。内閣府の令和四年の世論調査では「夫婦同氏制度を維持」が二七・〇%、「夫婦同氏制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設ける」が四二・二%、「選択的夫婦別氏制度の導入」が二八・九%といふ結果であり、国民の間ではコンセンサスができてゐない。家族や社会のありやうに関はることであり、婚姻前の氏を通称として使へる範囲をさらに広げることで、女性の不利益、不都合を解消していくといふ、自民党内で現在議論してゐる姿勢を他の六候補者が明確に述べられたことは適切であった。今年六月に経団連が選択的夫婦別姓導入の提言書を発表したが、実はその一カ月前に私は「婚姻前の氏の通称使用拡大・周知を促進する議員連盟」(約百五十人加入)の役員として、経団連役員と意見交換をした。にもかかはらず認識不足の提言書を出されたことは残念でならない。
 戸籍制度の見直しや民法改正も避けられなくなる。姓がファミリーネームから個人の呼称へと変はり親子別姓や家族別姓となることや、国がら、先祖供養の心はどうなるかなど、選択的だからいいといふ問題ではない。
 新内閣が優先順位を間違はず、やるべき課題に取り組んでいくやうつとめていきたい。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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