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論説 衆議院総選挙へ 自民党総裁選と石破内閣

令和6年10月14日付 2面

 自由民主党の新総裁に選出された石破茂氏は、十月一日招集の臨時国会で第百二代の内閣総理大臣に指名された。石破氏は直ちに組閣をおこなひ、天皇陛下による親任式と内閣の認証式を経て、新たに石破内閣が誕生した。
 四日の所信表明演説で石破新首相は冒頭、「政治資金問題などをめぐり、国民の政治不信を招いた事態」について「深い反省」を表明。国民から「納得と共感を頂きながら安全安心で豊かな日本を再構築する」と言明した。また、「ルールを守る」「日本を守る」「国民を守る」「地方を守る」「若者・女性の機会を守る」といふ五本の柱を掲げ、それぞれの方針を発表してゐる。
 岸田文雄前首相が「先送りできない課題」とした憲法改正と皇位の安定的継承については結局、石破内閣に先送りされる形となった。石破首相による所信表明演説ではこの二点について、憲法改正は憲法審査会での与野党での議論に、また皇位継承等をめぐっては国会が早期に「立法府の総意」をとり纏めることに期待を寄せる発言があったのみで、総理・総裁としての強い意志が示されなかったのは残念だった。


 臨時国会に先立ちおこなはれた自民党総裁選は、立憲民主党の代表選挙とも時期が重なり、その選出方法などを含めて関心が昂ったが、少なからず課題も残った。
 一回目の投票で安倍晋三元首相の路線継承が期待された高市早苗氏が総党員算定票・国会議員票ともに石破氏を上回ったものの、有効投票の過半数に達しなかったため決選投票を実施。その決選投票では都道府県票・国会議員票ともに石破氏が高市氏を上回り、勝者が覆る結果となった。過去に石破氏も決選投票で苦杯を嘗めた経験があるが、今回は高市氏が苦杯を嘗め、日本初の女性首相となる機会を逸した。
 をりしも英国でも保守党の党首選挙がおこなはれてゐるが、そのやり方は自民党とは逆で、まづ議員投票で候補者を二人に絞りこみ、次にその二人のいづれが党首に相応しいのかを党員投票に委ねてゐるのである。党員票の「ドント方式」による比例配分や決選投票での算定方法の変更など複雑な仕組みはなく、党員選挙の得票数で党首が決定する。わが国においても参考となる賢明な方法の一つといへるだらう。


 いま一つ今回の総裁選で浮き彫りとなったのは、政治的空白が生じたことによる国家防衛上の課題である。官房長官や外相をはじめ四人の閣僚を含む九人が総裁選に立候補し、十五日間にも亙って遊説などに熱を上げるなか、周辺諸国からの軍事的挑発を招いた。
 九月十二日の告示日に先立ち、中国軍の情報収集機による長崎県男女群島沖での領空侵犯が初めて確認され、告示日にはロシア軍哨戒機二機が日本列島を周回。その後も二十三日にはロシア軍機が北海道礼文島北方で三度に亙り領空を侵犯し、三度目には航空自衛隊の戦闘機が初めて敵ミサイル攻撃の回避等のために使用される熱源弾「フレア」を発射して警告する事態も発生した。また海上では中国・ロシアの駆逐艦など九隻が宗谷海峡を通過してわが国を威嚇。さらに北朝鮮・中国によるミサイル発射を含め、選挙期間中に安全保障上の脅威が一層増したことは間違ひない。


 石破氏はこれまでの持論に反し、しかもまだ総理に就任してもゐない九月三十日の記者会見において、十月二十七日に解散総選挙をおこなふ意向を表明。総理就任から二十六日後の衆院選といふ日程は戦後最短だといふ。これには野党やマスコミから言行不一致として批判が起きたが、石破氏と党執行部はその逆風に抗しながら、いまだ国民の怒りがをさまらない政治資金問題で関係議員の公認をめぐり厳しく対処することにより、国民世論に応へるといふ選択をしたともいへよう。
 立憲民主党の野田佳彦新代表は自・公の過半数割れを狙ひ、野党連携による政権交代を目指してゐる。石破氏には憲法改正や皇位の安定的継承、安全保障の課題を含め、「安全安心で豊かな日本の再構築」の実現のためにも、わが国の宰相として、また歴史ある保守政党の総裁としての覚悟と気概が求められよう。多くの自民党国会議員を擁する神道政治連盟国会議員懇談会、そしてもちろん神道政治連盟も、今回の衆院選ではこれまでにない困難な対応を迫られることとなる。厳しい状況のなかでの奮起に期待したい。
令和六年十月十四日

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