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杜に想ふ 子育ての文化 山谷えり子

令和6年11月04日付 5面

 各地の神社で七五三のお参りをする家族を多く目にするこの季節。幸せのおすそ分けをいただいてゐる。もともと平安時代の貴族から始まった儀式といふが、大河ドラマ「光る君へ」を見ながら思ふに、年齢で髪型や衣服を袴や小袖にしたり、本式の帯を締めたりと成長の儀式を踏んでいく習はしは、現代の多様性大事の時代とは合はないのかもしれないが、けぢめをつけ神仏の御加護を願ひ、誓ひを形としながら人格をみがいていくといふのは、人が成長する上でまことに理にかなってゐるやうに思ふ。であるからこそ、人は折々の節目に神社にお参りするのだらう。ちなみに平安時代は三歳になると髪を結ふ「髪置」、男児は五歳で「袴着」、女児は七歳で帯を締める「帯解」の儀式をおこなってゐたといふ。
 人の心を育てるのは人の心。愛を育てるのは、愛されてゐることを感じる時のつみ重ね。七五三の子らにほほ笑む親の表情のなかには、また自分がどんなに愛されてここまで歩んで親となったかを思ひ出してゐるさまが見てとれる。
 そんななかで、少し気になる調査を目にした。昨年、ビッグローブといふ会社が十八歳から二十五歳のZ世代といはれる若者に調査したデータだが、それによると、「将来結婚もしたくないし、子どももほしくない」若者が三六・一%。「子どもをほしくない」といふ若者の複数回答による理由では、「育てる自信がないから」(五二・三%)、「子どもが好きではない、子どもが苦手だから」(四五・九%)、「自由がなくなる(自分の時間を制約されたくない)から」(三六・〇%)であった。未来が心細くなるやうなデータで、小・中学校の先生たちにこのことを話したところ、「教育がとにかく難しい時代です」「深いつながりを求めず学ぶ意慾も低い」「根本的な病理は孤独」「先生をしてゐても教育者ではなく、福祉サービス業者のやうに思へる日々です」などといふ声が返ってきた。
 親が親らしくあり、愛情を注ぎ、手間ヒマをかけることがどんなに尊いことであるか、もう一度しっかり思ひ出すことが、次の豊かな時代を作ることにつながるのではないだらうか。思ひやりと意慾、情緒あふれる人材を世界は欲してゐるし、長い歴史と伝統文化をつないできた日本だからこそ、底力の大きさは計り知れない。そのためにも、乳幼児期の子らに存分な父性、母性、祖父母パワーが降り注がれるやう心していきたい。損得勘定や経済性がモンスターのやうに巨大化していけば、個人も共同体もバラバラに分解され、幸せな世であることは難しくなる。
 このたび全世代で「子ども・子育て」を支へるとして政府は法改正をし、年三・六兆円の財源を準備するが、法や財源は文化、習慣、伝統とつながってこそ、はじめて喜びの実を結ぶことだらう。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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