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論説 第二次石破内閣の課題 信頼恢復に保守の矜持を

令和6年11月25日付 2面

 今月十一日の特別国会で、石破茂首相が野党第一党・立憲民主党の野田佳彦代表との決選投票で改めて首相に指名され、第二次石破内閣が成立した。
 先の衆議院議員総選挙では政治とカネの問題処理で国民の失望と怒りを招き、自由民主党は五十六議席を、公明党は八議席をそれぞれ失った。両党の議席数を合計しても過半数には十八議席不足し、石破政権は自民党結党以来初めて少数与党政権に転落。安倍・菅・岸田の三代の政権が単独過半数を背景に自民一強の政権運営をおこなった時代は終はったのである。石破政権は、野党との協議を前提にした新しい政治方式を摸索していくことにならう。
 石破首相がすでに国民民主党の主張する経済対策で事前協議を開始したごとく、これから予算と法律を通すためには、そのつど事前に与野党協議をおこなふことが慣例化するであらう。それだけに我々は、真の保守政党としての自民党がどれだけ保守の矜持を保ち、守るべき大事な方針や政策を堅持していけるかを厳しく見守っていかねばならない。首相がただ政権の維持延命のために、戦はずして野党との安易な妥協に走ることは許されない。


 とくに外交と安全保障については、米国に次期大統領としてトランプ氏が再び登場してきたことで、石破首相は年明けから対米外交で大きな試煉に立ち向かふことになった。すでに主要人事が発表され、新政権は「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ氏の忠実な信奉者で固められ、議会の共和党多数を背景に、強大な権力を行使しようとしてゐる。
 トランプ次期大統領の特色は、何を言ひ出すか分からない予測不可能性にある。それが他国に対する脅威となり、米国にとっての対外抑止力ともなってゐよう。国際協調や条約、自由と民主主義といった普遍的理念や価値の尊重にはほとんど関心を払はず、外交を米国と他国との二国間のディール(取引)と考へ、自国に利得をもたらす方式に徹してゐる。それゆゑ安全保障では同盟国であってもただ乗りは許さず、軍事費負担の増額を要求し、貿易でも自国産業保護のため理不尽な関税の上乗せを要求してくることが十分に考へられる。石破首相の知力と胆力が試されることとならう。


 先の衆院選は、歴史伝統を守るために国民運動を推進する神社界にとっても大きな痛手となった。その一つは、我々の憲法改正運動への痛手である。選挙の結果、衆議院で改憲に必要な三分の二の議席を失ひ、加へて自民党は憲法審査会の会長ポストを、改憲反対の立憲民主党・枝野幸男元代表に手渡したのである。一時の頓挫は免れない。
 また重要なこととして、安定的な皇位継承のあり方をめぐる議論への影響が考へられる。これまで衆参両院議長の下で政府答申案に対して各党からの意見聴取がおこなはれてきたが、未だ集約の目処は立ってゐない。今回参院では自民党の議長が交代し、衆院では立憲民主党の副議長が入れ代はった。しかも立憲民主党の代表が「女性宮家」の創設を強力に主張する野田氏となり、国会での取り纏めの内容と遅れが心配される。
 さらに、選択的夫婦別姓制度の導入可能性が高まったことも懸念される。残念ながら、自民党は夫婦別姓に係る民法改正について審議する衆議院法務委員会の委員長ポストを、別姓推進論者の立憲民主党・西村智奈美前代表代行に手渡してしまった。野田代表は、委員長ポストの確保は別姓実現が狙ひだと明らかにした。野党が共同して議員立法で民法改正案を提出すれば、恐らく公明党も同調し、その実現可能性が高まる。自民党は現在、政務調査会の「氏制度のあり方に関する検討ワーキングチーム」のなかで議論をおこなってゐる。我々は自民党とその他の政党に強く働きかけ、日本社会として家族の一体性を維持することの大切さと、通称使用の社会的滲透による不便解消の事実を訴へ、夫婦別姓制度の導入阻止を目指さなければならない。


 今月二十八日から臨時国会が始まる。石破内閣の目指す方針や政策課題は国会での議論により国民に明らかにされることとならう。内閣の支持率は低迷してゐるが、来年夏の参議院選挙が政権交代の分かれ目となる。これまで自民党を支持してきたコアな基盤層からの信頼をいかに取り戻すかが、それまでの最大の課題といへよう。
令和六年十一月二十五日

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