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杜に想ふ うまし国 山谷えり子

令和6年12月02日付 5面

 師走の木枯らしのなか、この一年を振り返る。国会は難しい状況になってゐるが、民意をしっかり受けとめ、よく練り合っていく所存である。もともと日本は議論を戦はせて論破する国がらではなく、練り合ふといふ文化の国である。農耕民族らしい日本型民主主義の熟成に努めたい。
 このところ、そんなことを思ひながら道路に落ちる影が長くなっていくのを眺め、ふと少女の頃、毛糸でマフラーや帽子を編んでは友人にプレゼントしてゐた思ひ出がよみがへってきた。最近は“編み物は心身を喜びの方向に整へ直すお薬”などといはれ、静かなブームになってゐるさう。初心者向けのキットやリモートレッスンもあり、人気の先生への推し活もあるといふ。緻密な制作プロセスは理系男子にもアピールしてゐるとか。編物は瞑想をおこなった時と同様のセロトニンやドーパミンが出て、血圧を下げリラックス状態にさせるといふ。手仕事を尊び、生活文化を豊かにしてきた日本人の感性の歴史はいとほしい。
 祖母は編み物の先生でいつも何かを作ってゐた。そして、「えりちゃん、心は落ち着かないもの。でも編み物をすれば落ち着いて大切なものが見えてくる。怒りや嫉妬からも自由になるよ」と言ってゐた。
 さて、困難なことも多かった一年のなかで、世界遺産候補に「飛鳥・藤原の宮都」が選ばれたことは嬉しいことであった。来年一月末までにユネスコに推薦書を送り、順調なら再来年の夏には登録審査がなされる運びとなった。千三百年あまり前、中国・唐の軍事的脅威に備へて国造りをした飛鳥時代は、厳しい安全保障の状況下にある今の日本にとって改めて見つめ直す意義があると思ふ。
 唐の擡頭により東アジアは激動のなか、日本は百済に援軍を送るが、白村江の戦ひ(天智天皇二年〈六六三〉)で大敗。政権は強靱な体制づくりをしなければと天皇中心の国造りを急ぐ。現在の財務省、防衛省、宮内庁にあたる中央集権の国家基盤を造りあげ、同時に高松塚古墳や飛鳥寺跡など祈りの文化、芸術も深められていく。
 聖徳太子は律令国家への政策に尽くされ、“和をもって貴しとす”の今に続く和の国がらの礎となった時代である。私は自民党の「飛鳥古京を守る議員連盟」のメンバーとして、地元の方々と意見交換、視察、価値発信に努めてきた。大和三山や周囲の風景は日本の文化的原風景であり、万葉集に詠まれた自然感は日本人の遺伝子として永遠の時を刻んでゐる。
 万葉集にある舒明天皇の
大和には 群山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は 煙立ち立つ 海原は 鴎立ち立つ うまし国そ 蜻蛉島 大和の国は
は美しい国見歌である。その豊かな国に生かされてゐることに感謝し、継承発展させていきたい。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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