論説
全国教化会議を終へ 神社と地域の振興に向けて
令和6年12月09日付
2面
社会福祉を通じた神社の活性化と地域共同体の再生」を主題とする令和六年度全国教化会議が、十一月二十八・二十九の両日に亙り神社本庁で開催された。
三カ年継続「教化実践目標」の中間年にあたる今年度の会議は、少子高齢化や過疎化、人口の一極集中などが進み、共同体意識が稀薄化するなかで、地域の活性化を図るには神社が共同体の紐帯としての役割を果たすことが重要との認識に基づいて実施。とくに分断・孤立など社会的諸問題への取組みを通じた神社の公共性の認知といふ観点から神社と福祉との関係に着目し、地域共同体の再生、神社と地域の振興に繋がる教化活動の方途を探ることを目的とした。
今回の教化会議の成果を踏まへ、従前の教化活動に福祉的な視点も加へつつ、地域社会における神社のあり方を考へていきたいものである。
○ 初日は本庁事務局からの趣旨説明などに続き、藤本頼生國學院大學教授が「教化活動と『福祉』を考える」と題して基調講演をおこなった。藤本教授は福祉の概念や定義を踏まへ、神社における教化活動と福祉との関連性について、直接的な活動と間接的な活動といふ二つの視点から現在の具体的な事例を提示。また歴史的な経緯に触れつつ、篤志的な信念から福祉的な活動に従事した戦前・戦後の神職による取組みなども紹介した。さらに福井・宇波西神社の権禰宜で社会福祉士としても活躍する須磨航氏からの事例発表があったが、神社を基軸とした地域における子供の居場所づくりに関する報告はたいへん示唆に富む内容だったといへよう。
その後、翌日にかけて実施された分散会では、神社での社会福祉活動をはじめ、教化実践目標三項目の実施状況と課題、終戦八十年に向けての取組み、神葬祭の啓発など六点について意見を交換。「ごくありふれた内容だと思ってゐた教化活動のなかにも、意外と福祉的な側面が多くあることに改めて気づかされた」との意見も聞かれた。最後の全体会での討議を含め、社会福祉活動について教化活動との兼ね合ひのなかで捉へ直す良い機会となったのではなからうか。
○ 神社における福祉的な活動に関しては、例へば神職養成課程における教化活動に関する学科目の教科書などにも記載されてゐる。しかしながら斯界においては、これまでやや等閑視されがちな面もあったといへるだらう。さうしたなか今回の教化会議では社会福祉が具体的な主題として取り上げられ、全国から集まった教化担当者によって議論がなされたことは従前の教化会議にはなかった特色であり、大きな収穫の一つであった。
神社本庁では平成八年の設立五十周年を機に、教化活動の長期的展望である「教化活動大綱」と中期的展望としての「教化活動方針」を策定した。それから四半世紀を経るなか、令和八年の本庁設立八十周年を見据ゑつつ、その見直しなどの検討を進めてゐるといふ。今後、教化活動に関する新たな大綱・方針などの策定に際しては、今回の教化会議で取り上げられた福祉といふ視点も大切にしたい。
○ 神社は、鎮守の杜といふ環境資源のなかで、祭祀・祭礼などを通じて地域の歴史伝統や民俗的な文化などを伝承するとともに、他者との交はりを通じた共助の場としての役割を持つ存在である。また神社総代会や敬神婦人会・氏子青年会をはじめ、祭祀・祭礼などの奉仕活動に携はる宗教的な社会資源を有してゐる。神社でのさまざまな活動においては、氏子らの支援や協力のもと、それをコーディネートする神職の役割がなにより重要となることはいふまでもない。加へて福祉的な側面からいへば、神職には地域の人々の日常生活における精神的な充足のため、間接的な援助者としての役割も期待されてゐるのではなからうか。
共同体意識の稀薄化、分断・孤立の顕在化など社会的な課題が山積するなか、これまでの教化施策について福祉といふ視点を交へつつ検証するとともに、「教化実践目標」の最終年度に向けて、全国各地でより積極的に教化活動が展開されることを期待したい。各地での地道な取組みこそが、神社と地域の振興に繋がっていくと信じるものである。
令和六年十二月九日
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