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論説 歳末の辞 先人の歩みと理想を顧み

令和6年12月16日付 2面

 令和六年の歳末が近づき、本紙は今号をもって今年の最終号となる。
 今年一月、天皇陛下には参内した久邇朝尊神宮大宮司に対し、「御遷宮の準備が滞りなく進むことを願ふ」とのありがたき聖旨を賜った。そののち神宮当局は具体的次第についての伺書を提出。四月には御聴許を賜り、第六十三回神宮式年遷宮の御準備を神宮大宮司において取り進めることが発表されてゐる。今後、御聴許を拝して組織された神宮式年遷宮準備委員会での審議・答申を踏まへ、いよいよ本格的な御準備が進められていくこととならう。
 前例に倣へば明春には御用材を伐り出す御杣山の御治定を経て、遷宮諸祭の嚆矢となる山口祭・木本祭が日時御治定のもと斎行される。遷宮完遂に向けて斯界を挙げた取組みを始めたい。


 改めてこの一年間を振り返れば、やはり元日に発生した能登半島地震のことが想起される。石川県の羽咋郡志賀町や輪島市で最大震度七を観測し、死者は四百五十七人(災害関連死二百二十九人含む)に及んだ。当日、輪島市内で発生した大規模火災のニュース映像は、新年を祝ふ各家庭にも大きな衝撃を与へたのではなからうか。
 宮内庁は元日深夜、地震の被害状況等に鑑み、新年一般参賀を中止すると発表。天皇・皇后両陛下には五日、犠牲となった方々に対するお悼みと、被害を受けた方々に対するお見舞ひのお気持ち、また、災害対策のために尽力してゐる関係者に対するおねぎらひのお気持ちを、侍従長を通じて石川県知事にお伝へになられた。さらに両陛下には被災地お見舞ひのため、三月と四月に石川県に行幸啓遊ばされてゐる。
 その後、八月には日向灘を震源とする地震が発生し、気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」を発表するなど、今年も各地で自然災害が相次いだ。改めて犠牲者に哀悼の意を捧げ、一日も早い被災地復興を祈念したい。加へて、二月には神社本庁が災害対策研修会を初めて開催したが、引き続き地域社会における神社の歴史的な公共性を踏まへ、危機管理体制の構築や地域住民との連携など自然災害に際して果たすべき役割を考へていきたいものである。


 国の内外を見渡せば、ロシアによるウクライナ侵攻や中東での紛争が長期化するとともに、中国による台湾有事への懸念なども指摘されてゐる。さうしたなかアメリカ大統領選におけるトランプ氏の勝利や、これまで世界を牽引してきた主要国の政局不安定化なども相俟って、国際情勢は先行き不透明な状況が続く。わが国においても、自由民主党の総裁選、衆議院議員選挙を経て少数与党の第二次石破茂内閣が成立したが、「政治とカネ」の問題への対応を含め難しい舵取りを迫られてをり、斯界が関心を持つ皇位の安定的継承、憲法改正、安全保障に係る議論の行方などへの影響が心配される。
 その斯界においては神社本庁が今年度からの新たな施策として、「令和六年度神宮大麻頒布向上施策」、第三期「過疎地域等神社活性化推進施策」、第五期「不活動神社対策特別推進事業」などを策定。いづれにおいても過疎化・少子高齢化をはじめ神社をめぐる社会環境の変化への対応が求められる。また、かねて懸案となってゐる総長選任問題に関しては、十月二日付の最高裁判所による決定で庁規条項に係る司法判断が確定。今後、ややもすれば分裂・分断の目立ちがちな斯界の状況をいかに改善・修復していくのかが課題といへよう。


 神宮式年遷宮は第四十一代・持統天皇の御代に初めて斎行されて以来、中世の中断を経つつ、千三百年に亙り国家の重儀として続けられてきた。ただ終戦直後の第五十九回はいはゆる半官半民として、さらに以降は国民奉賛のもとで斎行されてゐる。この間、先人たちが「本来は国家の責任において遂行されるべき」との思ひなどから「神宮制度是正問題」に取り組んできたことも忘れてはならない。
 神社本庁も、敗戦・占領にともなひ発出された「神道指令」の影響により、国家と神社との関係性が断たれるなかで設立された。終戦八十年を来年に、また本庁設立八十年を再来年に控へたこの歳末。まづは山積するさまざまな課題に向き合ふに際し、戦後の斯界の歩み、先人たちが理想とした精神を顧みることの大切さを共有したいものである。
令和六年十二月十六・二十三日

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