論説
初詣にあたり 年頭の祈りと被災地への思ひ
令和7年01月20日付
2面
令和七年の新春を迎へた。
今年の正月三が日は、北日本などで降雪等に見舞はれたものの全国的に好天に恵まれた地域が多く、各地の社頭は多くの初詣参拝者で賑はひを見せたやうだ。
令和二年初頭からの疫禍により、初詣においてもこれまでさまざまな対応を余儀なくされてきた。一昨年五月に感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同等の五類へと引き下げられてから初めての正月となった昨年は、「疫禍前の賑はひを取り戻した」との報告が多く聞かれた一方で、元日夕刻には能登半島地震が発生。石川・奥能登地方を中心に甚大な被害があり、その影響は一年を経過した現在も続いてゐる。
疫禍と昨年の地震により、近年は新年を迎へて神々に詣でるといふ、これまで当たり前だった行為のありがたさを改めて感じさせられてきた。さうしたなか、今年は比較的平穏な年明けとなったことにまづは感謝したい。
○ 本紙取材によれば今年の正月三が日は、参拝者数・祈祷件数ともに昨年より増加したとの報告が聞かれた。また元日に先立ち神社に詣でる「幸先詣」への言及があったほか、年末から年始にかけて九連休となる場合もあったことから、三が日以外に参拝する分散化傾向が一層顕著になったのではなからうか。
新型感染症に関してはすでに昨年から大きな影響はなささうだが、神職・巫女などのマスク着用を徹底したとの事例もあり、多くの参拝者を受け入れる上での配慮が感じられた。参拝者においても、新型感染症に加へてインフルエンザ等の感染増加が報じられるなか、引き続きマスク姿での参拝も少なからず見られてゐる。
そのほか疫禍を契機とした露店の出店場所や授与品の授受方法の変更について、疫禍後も継続して好評を博してゐる、もしくは、すでに定着してゐるとの報告もあった。もちろん疫禍を理由に本旨を逸脱して易きに流れるやうなことは避けなければならない。ただ疫禍といふ不測の事態にともなふ試行錯誤が、初詣における社頭対応等のあり方を含め、良い結果に結び付いてゐるやうな事例もあるやうだ。疫禍後の初詣にあたり、これまでの対応の是非を今一度確認するなかで、今後の社頭対応等のあり方を再検討するやうな取組みも大切だらう。
○ 初詣参拝者で各地の社頭が賑はってゐた元日午後、石川県輪島市では石破茂首相なども参列のもと県主催の「令和六年能登半島地震・令和六年奥能登豪雨犠牲者追悼式」が執りおこなはれてゐる。そのほか各地で慰霊の祈りが捧げられてをり、一月一日は追悼・慰霊の日ともなった。
この年末年始には能登半島地震に関する報道が多く見られたが、発災から一年を経た今も断水が続く地域があることなど社会基盤の復旧の遅れを指摘し、「相当異常」として憂へる地元神職の声なども紹介されてゐた。国土交通省などによれば、戦後二五%程度だったわが国の水道普及率は、昭和五十年代に九〇%に達し、現在は九八%を超えてゐるといふ。さまざまな事情もあるのだらうが、被災から一年を経てもなほ断水に悩まされる人々が存在するといふのは確かに異常と感じざるを得ない。
社会基盤の早期復旧といふ課題は斯界の力だけでは解決できず、さうした復旧の遅れにより氏子の生活再建に目処が立たない現状においては、被災神社の復興を考へることも困難だ。これからも被災地に長く思ひを寄せつつ、要路への働きかけや新たな支援策の検討など、斯界においてもできることを摸索したい。
○ 宮内庁は一月一日、新年にあたっての天皇陛下の御感想を発表。陛下には、能登半島地震をはじめ台風・豪雨など昨年の各地における災害の発生等に触れられ、困難を抱へてゐる人々のことを御案じになられつつ、「人々がお互いを思いやり、支え合いながら、様々な困難を乗り越えていくことができるよう願っています」との思召しをお示しになられてゐる。
令和七年の年頭にあたり、改めて常に国家・国民の安寧を祈念される大御心に思ひを致したい。加へて、初詣におけるそれぞれの新年の祈りに、被災地の早期復興への願ひなども重ねたいものである。
令和七年一月二十日
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