論説
過疎対策研究会 成果活かし施策の実効を
令和7年03月10日付
2面
去る二月二十六・二十七の両日、第二期・第三期合同過疎対策研究会と過疎対策教化研修会が神社本庁において開催された。
研究会では本庁報告に続いて基調講演と事例発表があり、過疎地域の厳しい現状のなかで工夫を凝らしつつ取り組んでゐるさまざまな活動が紹介された。さらに分散会・全体会においては、神職・総代等の連携、地域における相互扶助体制の構築、関係人口の取込みなど将来的な人的資源の確保等について活溌に討議がおこなはれてゐる。
研究会に引き続き実施された研修会とあはせ、二日間の成果が過疎地域における神社活性化に向けた取組みの一助となることを期待したい。
○ 研究会における基調講演では、東京・浅草での活動を皮切りに、地域活性化に向けたさまざまな取組みが紹介された。とくに現在、香川・小豆島で実施してゐる「ふるさとあんどんまつり」についての報告があったが、神社祭礼にあはせて行灯や提灯を飾るなど、神社とまちづくりや地域おこしを結び付けた取組みは、神社本庁教化講師として今回の研究会にも参加してゐた黒﨑浩行國學院大學教授がかつて論文で紹介した東京・天祖神社と「大塚まちの灯り」といふ活動との関係性にも通ずるものがある。
また研修会において、地元住民に加へ関係人口・交流人口に注目した講義があったやうに、確かに魅力的なまちづくりなどによる関係人口・交流人口の増加は重要である。ただ斯界にとってなにより大切なのは、さうしたまちづくりなどの活動を通じ、また外部の視線を介し、住民が地元の魅力を再認識して一層の愛着を持つことであり、当該地域に住まふことのありがたさを氏子意識とともにいかに醸成させられるかではなからうか。神社祭礼など地域の歴史・文化を活かしたまちづくりは、地元への愛着を育むとともに、地域コミュニティの絆を強め、将来的な信仰や祭礼の維持にも繋がると信じるものである。
そのほか研究会の事例報告では「神職婚活サポート事業」について紹介されてゐたが、神職の後継者問題の対策としてだけでなく、住民を増やし定着させる活動としての視点からも評価できるものであらう。
○ 顧みれば斯界では過疎地域の神社活性化について、過疎と表裏の関係にある過密の問題とともに対策が講じられてきた。古くは昭和三十八年の『神社運営法第一輯―小規模神社問題解決のために―』や『都市団地と神社―実態調査報告―』の刊行などに遡るといへよう。その後、「過密過疎地域の神社実態調査」「過疎地帯神社の実態調査」などの実施を経て、昭和五十年度から平成二十六年度まで約四十年間に亙り神社振興対策「モデル神社制度」が続けられ、その後継として過疎地域神社活性化推進施策が始まった。
これまでの施策の検証なども必要となるが、昭和五十年度の神社振興対策の開始より五十年を経た現在、終戦から高度経済成長期以来の都市部への人口流入に加へ、昨今の少子高齢化の加速も相俟って、過疎化は地域社会そのものの維持にさへ困難な状況を齎してゐる。斯界でもさまざまな取組みを実施してきたが、もとよりさうした活動だけで過疎化の問題は解決できない。
昨今はNPOなどの民間団体や地域住民が主体となり、地域社会の賑はひを取り戻すべく地域資源としての祭礼行事など地元の歴史・文化に着目した活動も多く見られる。現行の過疎地域等神社活性化推進施策の主眼の一つである斯界内部における相互扶助体制の構築とともに、行政をはじめ外部組織との連携・協力も、過疎地域における神社の活性化ひいては地域振興にとって重要といへよう。
○ 平成二十九年に策定された過疎地域神社活性化推進施策。第一期・第二期それぞれ三年間の指定期間を終へ、要項の見直しや若干の名称変更などもおこなひながら、昨年七月からは第三期の指定期間が始まってゐる。
第二期の活動実績の検証と第三期の活動充実に資するため、活動事例や問題点を共有するとともに、施策展開についての討議をおこなふことを趣旨とした今回の研究会。その成果がそれぞれの地域の状況を踏まへた形で活かされ、施策の実効が上がることを切に望むものである。
令和七年三月十日
オピニオン 一覧