【新刊紹介】新編 オオカミは大神 狼像をめぐる旅 青柳健二著
令和7年03月17日付
6面
失はれた自然観や 信仰に思ひを致す 著者は丹念な取材と研究に基づき、日本の「オオカミ信仰」と、狼たちの絶滅までの歴史を活き活きと描き出す。伝承や民話、歴史的記録を織り交ぜながら、狼が持つ二面性――人々を脅かす獣であると同時に、山の神の使ひとして崇められた存在――を鮮やかに浮かび上がらせてゐる。
本書の特筆すべき点は、著者が各地に残る伝承や祭祀を丹念に訪ね歩き、そこから浮かび上がる日本人の自然観や信仰心をみごとに描写してゐるところであらう。狼にまつはる民間伝承や、その出没地に建てられた神社の由来、さらには人々の暮らしと狼との関はりまで、視点は実に幅広い。単なる歴史学や民俗学の研究を超え、失はれた日本の自然観を見つめ直し、現代における自然との共生のあり方を問ひかける重要な一冊となってゐる。
〈税込2200円、イカロス出版刊。ブックス鎮守の杜取扱書籍〉
(東京・田無神社権禰宜 山中聡一郎)
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