論説
通信員アンケート 変化をいかに考へるか
令和7年03月17日付
2面
本紙三七一九号(三月三日付)の紙面において、今年の初詣等に関する全国通信員アンケートの結果概要が掲載されてゐる。地方総局(神社庁)を通じて委嘱してゐる通信員を対象に正月三が日の参拝者数をはじめ、第六十三回神宮式年遷宮の諸祭・諸行事がいよいよ始まるのを前に遷宮奉賛を含めた神宮奉賛などについて訊ねたもので、三百七十二人から回答を得たといふ。
自由記述欄には、初詣に限らずキャッシュレス決済や過疎・少子高齢化といった今日的な課題を含め、奉務神社の現状などについてのさまざまな思ひが寄せられたとのことで、多くの紙面が割かれてゐる。アンケートの結果概要から垣間見える斯界の現状や課題、そして各地の神職の問題意識を確認したい。
○ そもそもこの通信員アンケートは、令和二年初頭からの新型コロナウイルス感染症の蔓延にともなひ神社においてさまざまな対応を余儀なくされるなか、とくに多くの参拝者を迎へる初詣にあたり全国各地の神社がどのやうな対応を図ったのか、その状況把握と情報共有を意図して始められた。それからすでに五年が経過して疫禍が収束した現在、新型感染症そのものによる大きな影響は見られず、おほむね通常通りの初詣に戻ってゐることがわかる。
ただその一方で、初詣を含め平素の社頭、そこでの奉仕が必ずしもすべて従前通りの状態に戻ったわけではなく、疫禍を契機として、ややもすれば信仰のあり方に関はるやうな部分においても変化が生じてゐるといへるのではなからうか。さうした変化は、時代・社会の流れなどにともなふ漸進的な変化が疫禍により加速したもの、また疫禍といふ非常時における臨時の対応が常態化してしまったもの、さらには是非についての議論・結論のないままなし崩し的に変化が黙認されてゐるもの等々、いくつかに分類することができよう。
疫禍がほぼ収束して一定の落ち着きを取り戻してゐる今、さうした変化の実態を把握し、その適否について改めて検討するやうなことも必要なのではなからうか。
○ さうしたさまざまな変化のうち、例へばキャッシュレス決済の導入については「業者に払ふ手数料が課税対象となることから、導入には慎重に対応したい」「授与所のみ導入してゐるが、年々利用者は増加してゐる。今や導入は必須」などと異なる意見が見られ、傾向としては数年前まで多かった否定的な意見が徐々に減少してゐるといふ。また、「税制面、教学面での対応が早急に必要と考へる」「斯界としてしっかりとした導入のガイドライン等先行して決めていく必要があるのではないかと感じる。個々の神社に任せるのではなく、包括法人として神社本庁に主導していただきたい」などと、斯界としての対応の必要性を指摘する声も寄せられてゐる。
をりしも神社本庁では、今月の「月刊若木」に「神符守札等の御取扱ひについて~キャッシュレス決済の問題点~」と題する解説文を掲載。さらに令和四年から開催してきた「教学上の現代的諸問題に関する研究会」ではキャッシュレス決済についても議論があり、現在はその報告書の取纏めが進められてゐるところだといふ。
通信員アンケートの回答からも窺ひ知れるやうに神社の規模や状況はさまざまで、求められる対応もそれぞれ異なる。まづは神社本庁による解説文や報告書なども参考にしつつ、現状・課題を広く共有したい。
○ このほか通信員アンケートからは、神宮大麻の頒布をはじめとする神宮奉賛や過疎・少子高齢化などについて、それぞれが切実な思ひを抱へてゐることがわかる。そこには神社・神道、ひいては斯界の今後のあり方を問ふやうな内容も含まれてゐるといへよう。
神道には他宗教にあるやうな教義・経典がないため、新たな事態が生じた時は伝統を踏まへ、現状を把握し、将来を見据ゑ、対処していくことが求められる。それは、神職のみならず氏子崇敬者を含めたすべての神社人に求められることである。先人から受け継いだ神社、そして信仰の姿を間違へることなく未来に継承するために、いたづらに現状に媚びるやうなことなく、まづは一人一人が自ら考へて問ひ直していくことが必要である。
令和七年三月十七日
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