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論説 神宮研修会 伊勢の地で受け継ぎ紡ぐ

令和7年03月31日付 2面

 三月十八日から十九日にかけて、「受け継ぎ紡ぐ~変はりゆく世の中で守り繋ぐ神宮式年遷宮~」を主題とする神道青年全国協議会(=神青協)主催の神宮研修会が開催された。
 神宮研修会は、神青協恒例の中央研修会とは講義内容や服装などに相異がある。中央研修会は青年神職自身の興味・関心や問題意識から講義内容を検討・企画するのに対し、神宮研修会では神宮司庁の協力を仰ぎ、もっぱら神宮に関する講義がおこなはれてきた。服装も中央研修会はスーツ姿で参加するが、神宮研修会では全員が白衣・白袴を着用する。
 詳細は次号紙面に譲るが、今回は初日に神宮職員による式年遷宮の歴史や意義、遷宮ごとに調製される御装束神宝に関する講義があり、二日目は三つの分科会に分かれて正宮御垣内・御敷地清掃奉仕、常典御饌奉拝、神宮宮域林の見学などを実施。早朝参拝に加へて夜間参拝が許されるなど、数々の貴重な経験に参加者の感慨も一入だったといふ。神宮で学びを深めた青年神職たちのさらなる活躍に期待したい。


 この神宮研修会はこれまでおほよそ十年に一度実施されてをり、今回は平成二十八年以来となる九年ぶりの開催だった。
 神宮を本宗と仰ぐ神社本庁においては、その神徳宣揚をはじめ神宮大麻・暦の頒布、遷宮奉賛、参宮促進といった神宮奉賛が中核的な活動の一つとして位置付けられる。さうしたことも踏まへ、中堅神職研修や指導神職研修などをはじめとする研修会が伊勢の地で開催され、また神職養成における実習もおこなはれてきたのではなからうか。
 神青協では、さうした神宮での研修会を自発的に企画。全国の青年神職が伊勢に集まり、神宮について研鑽する機会を定期的に設けてきたのである。白衣・白袴を着用して臨む講義は、かつて受講した神宮での実習や、その当時の初心を思ひ起こす機会ともならう。青年神職に限らず、伊勢において神宮について学ぶことの意義を改めて確認したい。加へて、今後も引き続き神青協の神宮研修会が企画されることを切に望むものである。


 今回の研修会の趣旨にもあったやうに、昨年四月には第六十三回神宮式年遷宮の御準備について天皇陛下より御聴許を賜り、今年五月には遷宮諸祭最初の祭儀として山口祭・木本祭が斎行される。さらに六月には御杣始祭・裏木曽御用材伐採式があり、そこで奉伐された御神木を伊勢へと陸送する際には、多くの神社関係者も参画のもと御神木奉迎送が盛大に執りおこなはれる予定だ。前例に倣へば、かうした諸祭・諸行事にあはせて遷宮の奉賛活動が始められることとなるが、青年神職には最前線における実動部隊としての役割が期待される。そのやうな意味においても神宮研修会の持つ意義は大きいといへよう。
 もちろん遷宮奉賛の活動はこれから本格化していくが、何も「無」から始まるのではない。これまで神宮研修会が続けられてきたやうに、斯界では遷宮奉賛に不断の努力を積み重ねてきた。さうしたことから考へると、例へばかつて親子参宮団に参加した子供が大人となって奉賛活動に協力することがあれば、それは時を経て得られた「これまで」の成果である。青年神職には、さうしたこれまでの蓄積を活かしつつ、さらに自らの活動を将来に繋げるといふ視点も大切にしてほしい。


 戦前、長きに亙り靖國神社の宮司を務めた賀茂百樹は、「中今とは過去ありて過去を離れず将来ありて将来を離れず、その中間に存する今の義である」と述べ、父祖と自身と子孫といふ生命の連鎖を尊重する精神の大切さを強調。この「中今」を生きるといふ意識は、賀茂に限らず多くの神道人によって重んじられてきた。
 かうした世代を超えた長期的な視点こそ斯界の強みであり、神宮式年遷宮、その奉賛活動、そして神青協による神宮研修会も、この「中今」の精神のもとで親から子へ、子から孫へと受け継がれていくことが期待される。
 神青協の神宮研修会にあたり、先人たちの精神を今に体現し、さらに後世へと伝へていくといふ「受け継ぎ紡ぐ」役割の尊さを肝銘しながら、神宮式年遷宮の完遂に向けた諸活動に臨むことの重要性を訴へたい。
令和七年三月三十一日

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