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杜に想ふ 国柄を守る 山谷えり子

令和7年04月07日付 5面

 肌寒い新年度の始まりとなったが、老若男女それぞれが思ひを新たにしてゐることだらう。国際社会は目まぐるしく変化してゐるが、それでも日本が苛烈な対立や分断に陥らず、まだまだ穏やかで思ひやりにあふれてゐるのは長い歴史のなかで培はれた国柄、地域と家族の絆があるおかげだと感じてゐる。
 そんななかで選択的夫婦別姓の問題が大きな議論となってゐる。自民党も二月から「氏制度のあり方に関する検討ワーキングチーム」を開き三月末までに七回の議論を重ねてきた。“戸籍制度の維持、女性の不便・不利益の解消、子供への影響、家族一体感の維持、国民の意見を反映した合意形成”の五点を基本論点にすゑて議論したが、議論を進めるほどに選択だから選択したい人だけがすればいいといふ軽い問題でなく、国柄と公的制度、慣行など社会全体に大きな変化をもたらすものであるといふ理解が広がってきてゐる。
 内閣府が令和四年に発表した調査は、夫婦同姓、同姓維持で通称法制化、別姓推進の三択で設問し、近年はメディア各社も三択で問ふやうになり、国民の約七割が夫婦別姓に慎重であることが明らかになってきた。また、夫婦別姓は親子強制別姓となり、内閣府調査で「子供にとって好ましくない影響がでる」は約七割となってゐる。
 別姓選択となれば一戸籍一氏制は、一戸籍二氏制に移行し、家族姓(ファミリーネーム)を持たない家族の出現により、氏は制度として“家族を表すもの”から“個人を表すもの”へと変質していく。さうなれば先祖とのつながりも不確かなものとならう。日本の国柄は神仏と先祖の御霊とともにあることと結びついてゐる。先祖に見守られながらの暮らしが思ひやりや道徳心の根源的力となってゐるが、そこが傷ついていくのではあるまいか。
 すでに住民票やマイナンバーカード、パスポート、運転免許証などは旧姓を併記できる。経団連が昨年提言した選択的夫婦別姓を求める提言が主張した多くの不都合は、今回の自民党が求めた各府省庁対応状況調査ですでに解決してゐるものが多いこともわかった。であれば同姓を維持し、旧姓使用拡充のための法制化をすれば良いのではないか。
 自民党は結党当初の昭和三十五年に「保守主義の政治哲学要綱」をまとめた。保守主義は、政治権力の限界を自覚し「政治の限界を理解することが政治的叡智獲得の芽生えであり、われわれが政治権力の外にあるべき宗教・道徳・慣習・学問・芸術を尊重するゆえんも実にここにある」と明記してゐる。かういふことを語ってゐる政党は他にない。自民党は日本の国柄に基づいた大衆政党でありたいと結党したのである。このことを忘れず、選択的夫婦別姓論がイデオロギーや政局にからめとられぬやう慎重な議論のもと国柄を守り抜いていきたい。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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