論説
新年度にあたり 少子高齢化と養成・奉職
令和7年04月07日付
2面
新年度を迎へ、街には新社会人の初々しい姿が見られるやうになった。
厚生労働省と文部科学省がこのほど公表した「令和七年三月大学等卒業予定者の就職内定状況」(二月一日現在)によれば、今春の大学卒業予定者の就職内定率は九二・六%で、調査開始以降の同時期で過去最高になった。少子高齢化が進み、人手不足がいよいよ深刻となるなかで企業の採用意慾は高く、学生優位のいはゆる「売り手市場」が続いてゐるといふ。
斯界でも各養成機関を卒業した学生たちが各地の神社で神明奉仕を始めてゐる。まづ以てこの春から新社会人となった若者たちの門出を祝福したい。
○ 一般の大学卒業者と同様、斯界における奉職についても慢性的な売り手市場となってゐる。
本紙が実施してゐる各養成機関における奉職状況の調査を見ると、例年、國學院大學・皇學館大学の両大学には資格取得者数を上回る求人が寄せられてゐる。大学の担当者からは「地方の神社を希望する学生が多く、全国各地の神社に奉職する傾向が見られた」との声が聞かれ、かねて懸案だった奉職希望先の地域的な偏りはやや改善傾向にあるものの、依然として必要な奉職者を確保できないといふ神社が少なくないやうだ。かうした状況が長引けば、人手不足により職場環境が悪化し、結果的に学生から忌避されて求人に対する応募が来ないといふ悪循環も招きかねない。
学生たちは奉職先を考へるにあたり、神社の由緒や規模等だけでなく、給与や休日などといった待遇面をはじめ、場合によっては他業種も視野に入れつつ、さまざまな観点から検討してゐる。もちろん神社での神明奉仕と一般企業等への就職は同列に論じられない部分もあるが、「ワーク・ライフ・バランス」の重視や「働き方改革」の推進など労働環境をめぐる変化のなかで、奉職先として魅力的かどうかが重要となる。学生が何を求めてゐるのか、学生目線に立って対応を考へていくやうなことも必要なのではなからうか。
○ さうしたなか神道青年全国協議会は昨年十一月十三日、創立七十五周年記念事業の一環として國學院大學で奉職説明会「現役神職が語る『未来の神職へ 神社の仕事とその魅力』」を開催。神職を志す学生が抱く奉職への不安や悩みを少しでも解消してもらはうと現役神職との交流の場を設け、少人数による座談会では学生からの質問に応じて若手神職が奉職の実態などを語った。大学を会場に兼業神職や女性神職を含めた現役の神職が学生と交流の場を持ったことは、今後、奉職者を受け入れる現場の神職と養成機関である大学とが協力して神職の養成・奉職をめぐる課題について考へていくための新たな試みの一つとして評価できよう。
また、神務実習で学生を受け入れてゐる指定神社において、参加学生に地方の神社の魅力や、神明奉仕の尊さなどを意識的に伝へるやうな取組みを進めてゐる事例もあるといふ。確かに、神明奉仕の実態や地方の神社において奉仕する魅力などについては、各養成機関に提出する求人票だけではなかなか伝へられない。さうしたことを学生に伝へていくための一つの方途として、かうした神青協や神務実習の指定神社による新たな試みにも期待したい。
○ 神職資格の取得に関しては、國學院大學・皇學館大学の学部・学科や専攻科・講習会をはじめ、即戦力の養成が期待される各地の普通養成機関、通信制といふ特殊性を持つ大阪国学院のほか、神社庁での講習会、検定試験などいくつかの方法がある。少子高齢化による影響はもとより、最低限の能力・知識の担保、神社が求める人材と資格取得者の意識の隔たりなど、それぞれに課題を抱へてゐよう。
斯界を見渡せば、代表役員不在による不活動神社の存在、他業種を兼務しながらからうじて累代奉仕神社を護ってゐる事例など、新卒者の採用に限らず神社奉護や後継者をめぐる課題は山積してゐる。さうした意味でも、資格取得者の奉職をはじめ、その後の異動や再雇用に関する情報共有など、奉務に係る支援体制の構築を斯界全体で検討していくやうなことも必要だらう。その取組みは奉職する側だけでなく神社の側にとっても有益であり、神職の養成・奉職をめぐるさまざまな課題解決の鍵ともなると信じるものである。
令和七年四月七日
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