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杜に想ふ 百年の祈り 涼恵

令和7年04月14日付 5面

 今年は「昭和」といふ元号が誕生してから百年目となる。一世紀といふ時の重みが、静かに私たちに語りかけてゐるのを感じてゐる。
 そんな節目である令和七年昭和の日の四月二十九日、私事でたいへん恐縮ながら、夕方から昭和百年奉祝記念涼恵コンサートを代々木上原の古賀政男音楽博物館けやきホールにて開催させていただくこととなった。もしも読者のなかに御都合の良い方がいらっしゃり、会場まで足を運んでいただき、ともにこの記念すべき昭和百年をお祝ひすることができたなら、とても素敵なことと思ふ。
 「昭和」といふ元号は五経の一つ「書経」のなかにある「百姓昭明にして、萬邦を協和す」を典拠とし、「昭にして和」といふ願ひがこめられてゐるともいふ。皆様は昭和を想ふとき、どんな景色が浮かぶだらうか。
 例へばそれは、戦争、復興、そして高度経済成長と、目まぐるしく変はる時代のなかで、人々が生き抜くために懸命に祈り続けた時代だったとも言へるのではないだらうか。
 今、昭和レトロが再び注目を集め、シティポップや昭和歌謡、アナログレコードが世界中で愛されてゐる。再評価されてゐる理由の一つに、便利さや効率だけでは測れない心をこめた営みがあると言はれてゐる。
 昭和といふ時代、とくに戦後から高度経済成長期にかけての日本は、歌謡曲を通して多くの国民に勇気と希望を届けてゐた印象が強い。歌と生活が今よりずっと近い距離だったやうに感じる。誰もが気軽に口ずさめる親しみやすさ。昭和の歌謡曲には、夢や癒しや慰め、そして時には平和への祈りがこめられ、メロディーとして楽しむだけでなく、その時代を生きた人々の心の支へとなってゐたのだらう。
 再評価の影には、単なる懐古ではなく「失ひたくないもの」への願ひがあるやうにも思ふ。昭和といふ時代が持ってゐた人と人とのあたたかさや一手間こそ、令和の今を生きる私たちが改めて求めてゐるものなのかもしれない。
 戦争を乗り越え、復興のために力を尽くした人々が歌にこめたのは、希望と平和を求める声であり、昭和の歌は祈りそのものだと感じる作品が多い。移ろひながらも、変はらない祈りがあることを知る。そして祖父母が手を合はせた神社をこの先も守り続けてゆきたいと強く思ふ。
 昭和天皇の御製は、何度読んでも涙が溢れ情景が浮かんでくる。
 ふりつもるみ雪にたへていろかへぬ松ぞををしき人もかくあれ
 奉祝公演の準備を進めるほどに、つくづく昭和の激動のなかにある強さと美しさを感じてゐる。同日午前中には、全国の神社で昭和祭を御奉仕する神職の方々も多くいらっしゃるだらうと心強い。祈りと歌には、それぞれ時を超えて響く力があると信じてゐる。
(歌手、兵庫・小野八幡神社権禰宜)

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