論説
南海トラフ巨大地震 地域の紐帯強化を基盤に
令和7年04月14日付
2面
内閣府は三月三十一日、南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループによる新たな被害想定などを含んだ報告書を公表した。
防災基本計画の作成や防災に関する重要事項の審議等をおこなふ中央防災会議、その専門調査会である防災対策実行会議の下に設置された同グループ。平成二十六年三月の「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」の策定から十年が経過することを踏まへ、基本計画の見直しに向けた防災対策の進捗状況の確認や新たな防災対策の検討を目的に、令和五年四月から先月末まで二十九回に亙って会議を重ねてきた。
まづは報告書の被害想定・防災対策などを参考に、奉仕神社・氏子地域の現状や課題などを再確認したい。
○ 報告書では南海トラフ巨大地震により、震度六弱以上または津波高三㍍以上となる市町村は三十一都府県の七百六十四市町村に及び、その面積は全国の約三割、人口は全国の約五割を占めるなど影響は超広域に亙ると想定。また従前の基本計画と比べると、死者数は二十一万九千人から三十三万二千人だったのが十七万七千人から二十九万八千人に、全壊焼失棟数は二百五十万四千棟から二百三十五万棟にそれぞれ減少してゐる一方、停電軒数、情報通信の不通回線数、避難者数などは増加してゐる。
さうした状況について報告書では、被害の甚大さや広域性を踏まへると従来の行政主体による対策だけでは限界があり、またこれまで防災に関はってきた特定の主体による取組みだけでは到底太刀打ちできないことを指摘。「国民・事業者・地域・行政でともに災害に立ち向かい、地域社会全体で地域の安全を獲得していくことが必要」と強調してゐる。最後に、被害想定の大小や増減だけに焦点を当てたり、一喜一憂したりすることなく、着実に対策を実施すべきことが付言されてゐるやうに、まづは冷静に被害想定を受け止めつつ、「地域社会全体で地域の安全を獲得していく」ためにそれぞれができることを考へたいものである。
○ 今年は年頭に阪神・淡路大震災から三十年の節目を迎へ、また熊本地震からは来年で十年となる。この間、地震に限らず風水害なども各地で発生し、自然災害からの復旧・復興、平素からの対策が大きな課題となってゐる。
本紙前号には福島県神社庁の丹治正博庁長による投稿が掲載され、東日本大震災から十四年を経た「福島の現在地」が紹介されてゐたが、原発事故の特殊性を改めて認識させるものだった。また、発生から一年三カ月が経過した能登半島地震の被災地では、被災住宅の修繕や仮設住宅への入居が進んだことによる避難所の閉鎖など、復旧・復興に向けた動きも報じられてゐる。しかしながら、少子高齢化の進む過疎地といふ状況もあり、今後の具体的な生活再建の道のりが決して平坦でないことは容易に想像できよう。
をりしも神社本庁では、「原子力災害に係る神社支援基金」の有効活用や全国で自然災害が多発する現状などへの対応として、同基金の「神社復興支援基金」への統合を検討してゐるといふ。福島や能登に限らず、それこそ南海トラフ巨大地震をはじめ、今後も想定される自然災害を見据ゑ、さらなる支援体制の充実が図られることを期待したい。
○ 近年は災害対策、また被害を軽減させる減災の対策として、一人一人が自ら取り組む「自助」、地域や身近な人同士が共に取り組む「共助」、国や地方自治体などが取り組む「公助」の円滑な連携が重要視されてゐる。このうち「共助」の基盤・前提となるのが地域社会における構成員の紐帯であり、かねて、その強化を担ってきたのが神社における祭礼行事等だったのではなからうか。
さうした神社においても昨今は、都市部での人間関係の稀薄化や、地方での少子高齢化・過疎化の影響等による氏子意識の低下、神社振興と地域活性化、不活動神社の解消などが課題となってゐる。もちろん、それぞれ個別の施策・対応が必要となるが、災害対策としての「共助」において重要な地域社会の紐帯強化は、そのやうな課題のいづれとも深く関はるものであらう。災害対策を一つの手掛かりとし、地域社会におけるさまざまな課題との相互の関係性のなかで、今後の対応を講じていきたいものである。
令和七年四月十四日
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