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論説 今年の憲法記念日 改憲の最大課題は参議院対策

令和8年05月18日付 2面

 五月三日の憲法記念日、憲法改正を目指す民間憲法臨調と美しい日本の憲法をつくる国民の会の共催による「公開憲法フォーラム」が開催された。二十八回目となる今年は、自由民主党・日本維新の会・国民民主党の三党代表や憲法学者らによるシンポジウム形式で、各党からの意思表明と活溌な討論がおこなはれ、全国三十四会場への中継や動画共有サイトを通じた視聴を含め、一万三百五十人が参加した。
 先の衆議院議員総選挙で自民党は単独で改憲発議に必要となる三分の二の議席を獲得し、四月十二日の党大会では高市早苗総裁が「立党から七十年。時は来ました」と述べた上で、「改正の発議について、『なんとか目処が立った』と言へる状態で、皆さまとともに、来年の党大会を迎へたい」との決意を表明。今回の憲法フォーラムでも冒頭、「各党の御協力を得ながら、国会において決断のための議論を進める」との高市総裁による力強いビデオメッセージが紹介されるなど、今年は例年以上に真剣で、意義のある集会となった。


 フォーラムでは、「憲法改正は、もはや待ったなし」「自衛隊の明記や緊急事態条項の創設に向けた審議の促進と一刻も早い憲法改正案の作成を呼びかける」との声明文が発表され、主催者代表らが各党代表に手交。このうち自衛隊明記に関しては、シンポジウムでフロア代表として発言した元空将・麗澤大学特別教授の織田邦男氏から現場指揮の経験者の立場に基づく意見があり、その苦衷を吐露した内容がとくに注目された。
 織田氏は自衛隊に関する政府見解を示しつつ、現状は専守防衛の枠内での「必要最小限度」といふ軛が存在することを指摘。他国から侵略された場合でも「必要最小限度で頑張ってこい」といはざるを得ない状況にあり、昨今の緊迫する国際情勢のなかで戦争を起こさせないための抑止力にはならないことを説明した。また「自衛隊は違憲」と教育されてきた今の親たちが自分の子を自衛隊に入れようとしないことを紹介し、自衛隊を志望する子にストップをかけてゐるのは親で、その原因が九条にあることを解説。結果として人員不足から自衛隊は崩壊しつつあるといふ。さうした現状は洵に深刻で、現場の苦労も懸念される。


 自民党は現行憲法の自主的改正を党是としてきたが、改正条文があまりに厳しく、これまで衆参両院で同時に三分の二の改憲勢力を結集することは至難のことだった。さうしたなか自民党憲法改正推進本部では、長期政権となった安倍晋三首相のもと突破口を開くべく、時代の変化と要請に応じた個別のテーマについて有識者ヒアリングと党内議論を重ね、平成三十年に四つの優先検討項目に絞り込んだ「条文イメージ(たたき台素案)」を発表してゐる。
 その第一は自衛隊の明記(九条一項・二項を残して解釈も維持した上で、自衛隊・自衛措置に関する条文を加憲)、第二は緊急事態対応(大規模災害発生時における国会議員の任期延長と緊急政令制定についての条文を新設)、第三は合区解消・地方公共団体(人口動態や投票価値平等性の原則に基づく合区を解消し、都道府県単位の選挙制度を維持できるやう条文を拡充)、第四は教育充実(経済的理由に拘らず教育を受ける機会を享受できるやう環境整備に努めることと、私学助成等に関して条文を拡充)についてである。
 現在までのところ衆参両院で進捗に差があるものの、衆議院の憲法審査会では自衛隊明記と緊急事態対応についてはほぼ議論が出尽くし、条文起草に進める段階ともいはれる。迅速な発議に向けた審議促進の努力が望まれる。


 国会発議に至るまでには、越えねばならない難関がまだ幾つかあるが、最大の課題は参議院対策だ。現在、自民党と維新の会の与党だけでは三分の二の議席数に及ばないが、改憲に前向きな国民民主党・参政党・日本保守党をはじめ、無所属議員などを取り込んでいけば数的には三分の二に達する。
 高市首相は憲法記念日を前にした産経新聞のインタビューで、「再来年が参院選の年ですので合区解消は急がなければなりません」と語った。また前記の優先検討項目について「四つのテーマの重要性に優劣はない」と述べたが、緊急時における「参議院の緊急集会」の制度をめぐる議論を含め、参議院での調整が今後のカギとならう。
令和八年五月十八日

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