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論説 稲作と祭祀の振興に向けて 食料・農業・農村白書

令和8年06月15日付 2面

 農林水産省はこのほど、令和七年度「食料・農業・農村白書」を公表した。
 その巻頭「はじめに」において指摘されるやうに、わが国の食料・農業・農村をめぐっては「国際情勢の不安定化や気候変動による異常気象の頻発化、人口減少や高齢化」などの大きな変化のなかで、さまざまな課題に直面してゐる。このうち主食である米に関しては一昨年の夏以降、「令和の米騒動」といはれるやうな価格高騰が問題となったことは記憶に新しい。現在はやうやく下落傾向も見られるやうになってきたが、それでも「米騒動」以前の価格を大幅に上回ってゐる。
 新たに公表された白書を参考に、稲作をはじめ、わが国の食料・農業・農村をめぐる現状や課題を確認したい。


 今年の白書では、「米の安定供給に向けた対応」と題する特輯を掲載し、先に触れた米の価格高騰の要因や対応の検証、またそれを踏まへた対応策について紹介してゐる。
 このうち米の価格高騰の主な要因については、生産量が需要量を下回ってゐたことを指摘。しかし農水省では生産量が足りてゐると認識してゐたため、流通実態の把握に消極的で、市場への情報発信や対話が不十分であったこと、政府備蓄米の放出が遅延したことなどにより、さらなる価格高騰に繋がったとしてゐる。さうしたことを踏まへた対応策としては、収穫量の統計に生産現場の実感との乖離があるといふ指摘があったことを踏まへ、従来の「作況指数」に替へて新たに「作況単収指数」の公表を始めたほか、需給見通しの算出方法を見直したことなども挙げた。その上で、わが国の水田農業を維持し、食料安全保障を確保していくためには、生産者自らがさまざまな需要に応じた生産環境を整備するとともに、より効率的な生産体制の構築や流通の合理化、米粉の利用促進、輸出による需要開拓が重要であることを強調してゐる。
 稲作が生業として成り立つためには収益性の確保が必須だが、豊凶や米離れ・米余りへの懸念などを含め、対応は決して容易ではない。古来「農は国の基」といはれてきた。生産者自らの取組みに期待するとともに、引き続き国には適切な舵取りが求められよう。


 また白書では「昭和百年を振り返って」と題する特別企画を掲載。この百年間におけるわが国の食料・農業・農村をめぐる変化などを紹介してゐる。
 その特別企画によれば、昭和初期には冷害対策として耐冷性を強化した稲の品種開発が進展。戦時下では米や麦などの生産が優先されたほか、物資の統制・配給、労働力調整もあり、農業の生産構造や農村が著しく変化した。戦後は自作農創設特別措置法制定等の農地改革を経て、戦後復興のなかで昭和二十年代後半には農業生産も戦前の水準を恢復。稲作技術の向上により、十アールあたりの収穫量は昭和元年度の二百七十二キロから同四十一年度には四百キロへと飛躍的に増加し、完全自給を達成してゐる。ただ、米の年間一人当たり消費量は同三十七年度をピークに減少傾向が続き、供給過剰を解消するため生産調整が実施されるやうになった。
 さらに平成に入ると、平成五年の「ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉」による農産物貿易の自由化をはじめ、世界的な貿易の枠組みが変化。食をめぐる安全性や環境への関心の昂り、同十七年の食育基本法の制定、同二十五年の「和食」のユネスコ無形文化遺産登録を契機とする食文化への注目など新たな動向も見られた。そして令和を迎へた現在、新型感染症の蔓延や気候変動・武力紛争により、地政学的な情勢の不安定化が、輸入依存度の高いわが国の食料供給に深刻な影響を及ぼし得ることが認識されるやうになってゐる。


 冒頭で少し触れた人口減少や高齢化をはじめ、この百年間のさまざまな変化は、神社にとって重要な基盤の一つといへる農村にも及んでゐる。それは例へば昭和元年には五百五十六万戸を数へた総農家数が、現在は百三十九万戸にまで激減してゐることにも象徴されよう。さうした総農家数の減少は農村の姿を大きく変へ、神社の祭祀・祭礼にも少なからず影響を与へてきた。
 神代の「斎庭の稲穂の神勅」を現代において実践する稲作と祭祀。その護持と振興のためにも、わが国の食料・農業・農村に引き続き関心を持ち続けたいものである。
令和八年六月十五日

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